僕は被爆地長崎に生まれた。
長崎に原爆が投下された8月9日、父は長崎市外の郡部にいたし、母は「朝鮮半島」(今の北朝鮮)にいた。 僕の両親は被爆者でないし、僕は被爆二世ではない。 だが、父方の祖父は三菱造船所に徴用され長崎で被爆死したし、母方の祖父は復員直後、原爆投下から一ヶ月以内の広島(親類がいた)と長崎を訪れている。 また、僕は爆心地近くの城栄という町で育ち、城山小学校という小学校で学んだ。 だから、僕は被爆者と呼ばれる人たちの生の声(それも語り部や証言者としてではない、近所のおじさんおばさんとしての)を子供の頃からずっと聴き続けてきたし、長崎市内に残る被爆のモニュメントの数々も日々そこにあるものとして接し続けてきた。 つまり、僕という人間にとって、原子爆弾の投下とそれによってもたらされた様々な事象(加えるならば、日本人による「朝鮮統治」)に関しては、感覚的にも思考の上においても「日常的」なものとなってしまっているということを、まずは明記しておきたい。 昨日、マレビトの会の『HIROSHIMA-HAPCHION:二つの都市をめぐる展覧会』(松田正隆さん演出)の会場、京都芸術センターの講堂に入り、ぼたもちを作って食べるF・ジャパンさんを皮切りに、桐澤千晶さんや西山真来さんといった、それぞれのポイントに「配置」された演者陣を観ながらまず思い出したことは、演技のフリーマーケット、大道芸・香具師という言葉とともに、毎年8月9日、小学校の体育館に展示された被爆直後の数々の写真(全身に火傷をおった人たちや黒焦げになった人や動物の死体、一面何もかもが消えて瓦礫だけとなった爆心地近くの光景、熱線でくにゃりと折れ曲がった鉄骨…)のことだった。 そして、松田さんもまた、あれを子供の頃に体験しているのではないかと考えた。 (入場前に配られたパンフレットや、ポイントごとに設置された映像も、明らかにそうしたこと=原爆資料、を意識していると思う) ただ、正直に言って、個々の演者の語り演じるエピソードそのものからは、あの数々の写真の持つ、観る者を圧倒する力や、自分自身との距離感を強く感じさせる力を受け取ることは、残念ながら僕にはできなかった。 (演者陣が広島やハプチョンとどう向き合ったかということや、彼彼女らとそれとの距離感は充分理解できたし、原爆について、歴史一般についてどう伝えていくべきかということを改めて考えさせられたことは事実だ。また、松田さんが今回の演者を選ぶ際に、「タナトス」だけではなく「エロス」の側面についても重視しただろうことも想像できたが) それでも、15時45分に入場して、途中トイレで何度も退場したものの、結局18時の終了まで残ってしまったのは、「展覧会」という今回の趣向、松田さんの思考や志向、仕掛けや計算がその場に居続ければ居続けるほど透けて見えてきたことに加え、個々の演者によって多少の違いはありつつも、基本的には緊張感を持続したまま演技を続ける姿、ばかりか、それを観続ける観客の人たちを観察していることが、僕にとって非常に面白かったからである。 と、言っても、僕は他の方が書かれているほどには、「観る」と「観られる」という感覚の新鮮さにとらわれたわけではないのだが。 なぜなら、それは、僕が「観られる」ことに関しても、常日頃から過剰に意識し続けている人間であるからだ。 (告白してしまうが、昨日僕は、会場で自然にではなく、しかし意識してでもなく、「無意識」に故意に転んでしまったのだ。そして、皆の視線がこちらに集まったことをすぐに確認してしまったのだ。もちろん、ペパーミントパティとスヌーピーがプリントされたシャツを着て行ったのは故意ではないが) そして、最後の最後に訪れたのは、僕にとってはおなじみの、「ここにこうして集っている人間も、いずれは全て死んでしまう」というあの感覚だった。 いずれにしても、今回の『HIROSHIMA-HAPCHION』は、好き嫌い、退屈非退屈の反応が極端に分かれる、そして、あれこれと「語りたい」人にとっては、本当にあれこれと「語る」ことのできる材料の詰まった公演だと思った。 (僕自身、長々と書き綴ってしまったし) その分、今回の公演に強い影響や刺激を受ける演劇関係者も少なくないと思うが、これは松田正隆さんという傑出した演劇人と、彼が選んだ演者陣やスタッフだからなんとかバランスがとれているのだということは指摘しておきたい。 少なくとも、観られ続けることや観続けることに無頓着な人間は、安易な物真似は慎むべきだと強く思う。
by figarok492na
| 2010-10-31 15:08
| 観劇記録
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