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ふつうユニット『スペーストラベラーズ』

 お前は一体何者か?
 と、四十を過ぎてなお、と、言うよりも四十を過ぎたからなおのことか、自分自身に問いかける日々が続いている。
 すでにアクターズラボやてんこもり堂、テンケテンケテンケテンケ(残念ながら未見)などで演者として演劇活動を重ねている廣瀬信輔君から、彼が作・演出・制作その他もろもろを一手に引き受ける、ふつうユニットの空間に関する考察 実験2『スペーストラベラーズ』(壱坪シアタースワン)について「劇評家:無料」のシステムを利用しませんかと公演案内を兼ねたメールが届いたときも、すぐに思い浮かんだのは「お前は一体何者か?」という言葉だった。
 いや、劇評家と名乗ることにはおこがましさを感じるものの、『とまる。』のレビューなど劇を評する活動を続けていることは事実だし、廣瀬君からこうやって案内をいただいたことは非常に嬉しいかぎりだから、ありがたくご厚意を受けたわけだけど。
 それでも、現在の自分自身のあり様、生き方については、やはりはたと考えさせられるのである。

 で、そんな僕自身とは対照的に、『スペーストラベラーズ』は、廣瀬君が今本当にやりたいと思うこと、今表わしたいと思うこと、そして自分自身の拠って立つところがはっきりと示された作品であり、舞台となっていたのではないだろうか。
 未だ公演中ということもあって詳しい内容については触れないが、公演プログラムの用語解説にある「素粒子」、「次元」…といったいわゆるSFの世界でおなじみのタームや概念を基軸にしつつ、壱坪シアタースワンという限られたスペースの中で、ときにスラプスティックな動きを交えながら不思議で喜劇的な状況が展開されていく。
 確かに、技術面での巧拙を言い出せばいろいろと指摘することはできるのだが、まずもって自分自身が信ずるところを全面に押し出した廣瀬君の熱意や潔さに、僕は好感を抱いた。
 演者陣も、経験という意味で鈴木正悟さんに何日もの長があるのは当然だけれど、山野博生君、佐々木峻一君、古野陽大君も、各々の特性をよく発揮していたように感じた。
(先述したタームや概念の説明などで、どうしてもうろや抜けがあったことは事実だが、そうした演者陣の状態に、個人的には面白味を感じたことも付け加えておく)
 よい意味での肌理の粗さを残しつつも、テキストや演出面で一層緩急強弱の差が意識されていけば、より笑いの仕掛けが活きてくると思う。
 ぜひとも、次回以降も頑張っていってもらいたい。

 ところで、お前は一体何者か?(ただし、この場合のお前とは「私」一個のことではない)という問いかけこそ、宗教が、科学が、そしてSFが生まれた大きな原因の一つであるように、『スペーストラベラーズ』を観ながらふと思ったのだけれど。
 果たして、どうだろうか。
by figarok492na | 2011-05-07 23:20 | 観劇記録
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