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月面クロワッサン Vol.4『夏の目撃者』

☆月面クロワッサン Vol.4『夏の目撃者』

 脚本:作道雄、丸山交通公園
 演出:作道雄
 音楽:高瀬壮麻
 ドラマトゥルク:稲垣貴俊
(2012年6月9日、元立誠小学校職員室)

*劇団からの招待


 1+1=2。
 とは、小学校低学年で習う、算数の初歩も初歩だけど、これが実人生となると、即1+1=2とはいかなくなってくる。
 1+1=2ばかりではなく、1+1=10000になるときもあれば、1+1=-500になるときもある。
 さらには、1+1=1だってなくはない。
 それでは、この4月に組織拡大、組織改革を果たした月面クロワッサンの場合はどうなるだろう。
 月面クロワッサン自体としては4回目、そして改組後は初めてとなる本公演『夏の目撃者』を観ながら、どうしても僕はそんなことを考えざるをえなかった。

 とある湖畔に建つ病院、その病室の一つで男性患者がたむろしてああだこうだとよもやま話に興じている。
 と、一人の患者が妙なことを口走る。
 最近、窓の外、湖のほうから変な物音が聞こえてくる、と。
 果たしてその物音の正体は…。

 チラシのほうにもここらあたりのことまではちらと触れてあるので記してみたが、あとの詳しい内容については、月曜日まで公演が続いていることもあって省略する。
 これまでの一連の月面クロワッサンの公演、作道君の作品に親しんできた人間にとっては、はっきりと汲み取れるだろう重要なモティーフが、ネッシー騒動を絡めながら、ときにコメディタッチに、ときにスラプスティックに、ときにリリカルに(いつもながら、高瀬壮麻の音楽がぴったり)描かれていく。
 作道君の狙い、丸山君の仕掛けと、月面クロワッサンの面々が何をどう描きたいかということはしっかりとわかる。

 ただ、そうした意図はよくわかりつつも、今回の『夏の目撃者』に関しては、個々の狙いた仕掛けがまだ巧くまとまりきらず、ここは丸山君流儀、ここは作道君流儀と、ばらばらな形で終わってしまっていたように、僕には感じられて仕方がなかった。
 少なくとも、丸山君の側(人間のどす黒い部分、深淵を見て、ひきつりながらもなんとか笑いのめそうとする)に一層振り切れるか、作道君の側(小さなコミュニティにおける精神的な充足感への期待と希望)により擦り合わせるか、作品の構成や上演のスタイルも含めてもっと均していくべきなのではないだろうかと僕は考える。

 演者陣は、これまでの太田了輔、西村花織、森麻子、新たに加入した浅田麻衣、稲葉俊、小川晶弘、そして丸山交通公園と、個性特性の持ち主揃いで、特に丸山君のおかかなしさは印象に残るし、作道君の作品の世界観にとって小川君は得難い存在だなあと改めて思ったが(一方で、女性の描き方がさらに類型的になった気がする)、上述したような作品そのものの性格が彼彼女らの演技にも如実に表われていたように思われた。

 ただ、月面クロワッサンは、今ようやく新たな一歩を踏み出したばかりだ。
 1+1=2か? 1+1=1か?
 どのような方向へ主軸を置くかは別にして、さらなる表現の細やかさ丹念さを加えつつ、ひときわ優れた作品、練れたアンサンブルを月面クロワッサンの面々には生み出して行って欲しい。
 そして、次回の公演を強く心待ちにしたい。
by figarok492na | 2012-06-09 23:01 | 観劇記録
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