☆sawagare vol.5『顔の底』
作・演出:田中次郎
舞台美術:竹内良亮
(2012年8月19日、アトリエ劇研)
いやな血だねえ。
とは、黒澤明監督の『蜘蛛巣城』で山田五十鈴演じる浅茅(主人公鷲津武時の妻)が口にした言葉だけれど、その浅茅の台詞を真似して言えば、sawagareにとって5回目の本公演となる『顔の底』は、
いやな芝居だねえ。
ということになる。
むろん、この「いやな芝居」って言葉は、九割方は誉め言葉だ。
それじゃあ、残りの一割はというと、僕自身の好みと合わない表現がいくつかあったからである。
明日まで公演が残っていることもあって、あえて詳しい内容については触れないが、『顔の底』は、この世の、そして人間の内面のどろどろとしたもの、弱さ、いやったらしさ、嘘臭さ、愚かさ、救いようのなさを、エンタテインメントの手法を利用しながら、巧みに描き込んだ作品となっていた。
(閉ざされた共同体に犬という設定から、田辺剛の『建築家M』をすぐさま思い起こしたが、これはたぶん偶然だろう)
中でも、登場人物たちの狂気が噴出する中盤あたりに強く心を動かされたが、一方で、テキストの結構においてさらなる精緻さを求めたい箇所もいくつかあった。
特に竹内良亮の舞台美術が見事な分、それが生み出す独特な雰囲気を崩さないための工夫が必要ではなかったかと僕は思う。
演者陣は、個々の演技においてもアンサンブルにおいても熱演で、各々の特性魅力をよく発揮していたのではないか。
ただ、田中次郎のテキストの持つ「陰惨」さと「鬱屈」さ(そして、ここでは描かれないからこそかえって浮き彫りにされる、それとは反対の諸々)を十二分に表現しきるには、演技者としての巧拙云々ではなく、一個の人間としての強靭さがさらに必要なのではないかとも感じたりした。
いずれにしても、田中次郎というお芝居の造り手とsawagareの今後の可能性を改めて確認することのできた作品であり舞台であった。
次回の公演を心待ちにしたい。