9月5日の閉会式をもって、2014年度の京都学生演劇祭が無事終了した。
今回は、前々回前回と異なり観劇レポーターという立場から参加15団体の全上演を拝見することとなったが、例年と同様、バラエティに富んだ作品に大きな刺激を受けるとともに、舞台上の演者陣をはじめとした皆さんの上演にかける真摯な姿勢と熱意に強く心を動かされた。 まずは、こうした機会を与えてくれた実行委員の皆さん、沢大洋さんはじめサポートスタッフの皆さん、関係者の皆さん、何より参加団体の皆さんに心からお礼を申し上げたい。 本当にありがとうございます。 さて、各団体の上演に関してはブロックごとにまとめた個別の感想に譲るとして、ここでは今年度の学生演劇祭に接して感じたところをいくつかまとめて記しておきたい。 第一に、前々回から今回まで京都学生演劇祭の全上演に接してきて感じたことは、表現意欲が強く、演劇のみならず他ジャンルからの咀嚼吸収にも積極的で、脚本(演出)・演技両面において完成度の高い上位のグループ、評価すべき点も少なくなく、その取り組み方には好感を抱くものの、問題点・課題が散見される中位のグループ、今後のさらなる研鑚努力が期待される下位のグループ、というグループ間の格差が一層明らかになってきたことだ。 若干の異動はありつつも、審査員の皆さんや観劇レポーターの皆さんの評価にもそうした傾向が顕著に示されているのではないだろうか。 ただ、だからこそ、京都学生演劇祭の審査基準について再考される必要があるとも、僕は考える。 特に、同じ観劇レポーターの高間響さんからもすでにSNS上で指摘が行われているように、既存の学生劇団と演劇祭のために結成された団体に関して如何にバランスのとれた審査を行っていくのか、継続して京都学生演劇祭に参加している団体や個人の成長変化への評価をどう担保していくのか、逆に高い評価を得た新規の団体の継続的な活動をどのように促していくのかは、全国学生演劇祭との兼ね合いからも充分に留意すべき点だと思う。 審査基準と同様に、と、言うよりもそれより先に再考されるべきは、京都学生演劇祭のコンセプトそのものである。 京都学生演劇祭は、果たして一体誰のために、一体何のために企画され開催されているのだろうか。 作品の完成度を重視し、その優劣を競うことで学生劇団、ひいては演劇界の底上げを意図するコンペティションとしてか。 バラエティに富んだ団体参加者を集めることによって、既存の小劇場や映像作品等への即戦力、もしくは未来の戦力を見出す人材発掘の場所としてのショウケースとしてか。 学園祭的な雰囲気を全面に押し出した、参加団体や実行委員を中心とする、まさしく「祭」としてか。 むろん、そのいずれか一つに特化するのではなく、それぞれの利点を組み合わせたコンセプト、京都学生演劇祭の主眼主旨を設定することも可能だ。 しかしながら、これまでの状況を鑑みれば、残念ながら理念理想の提唱に比して明確な意志統一のないままに、京都学生演劇祭の運営は進められてきたと判断せざるをえない。 参加団体の増加、演劇関係者外への周知、集客の拡大、経済的基盤の安定等、学生演劇祭の長期的な拡大継続を計るにしても、逆に現在の学生演劇祭の自由な雰囲気を維持するにしても、具体的なコンセプトの確立は急務の課題であろう。 京都学生演劇祭開会直前にSNS上に掲載された、沢大洋さんの顔を中央にあしらったカウントダウンに対して厳しい疑義を呈したことも、上述したコンセプトの問題と密接に関わり合っている。 もちろん、京都学生演劇祭が沢さんの物心両面での奮闘努力によって継続されてきたことは、今さら駄弁を弄することではない。 また京都学生演劇祭や全国学生演劇祭の安定した運営を確立するために、オルガナイザーとして沢さんがメディア等で積極的戦略的露出を行うということには、大いに賛成だ。 けれどそのことと、京都学生演劇祭の情報宣伝の材料として沢さん個人を扱うこととは、やはり問題が全く別である。 例えば、同じ観劇レポーターの石田1967さんのLINX’Sや高間上皇の高間響国際舞台芸術祭のように、運営面においてもお客様へのエンターテインメント的なサービスとしても徹頭徹尾沢さん個人をアピールし押し出す、出場団体も自らが選択し、経済面でもその大半を沢さんが負担するという、それこそ沢大洋記念学生演劇祭や沢大洋顕彰学生演劇祭であるのならばまだしもだ。 参加団体から低額とはいえない参加費(今回から増額されたとも聴く)を集めているにもかかわらず、参加団体の意志確認もないままにこうした宣伝活動を行うことには、たとえ実行委員の多数の要望善意から発生したことであったとしても、現在の学生演劇祭の拡大姿勢=公的側面の強化や、沢さんと参加団体との関係性の変化(参加団体の代替わりもあって、以前ほどには沢さん個人と参加者とが密接な関係にあるとは言い切れない)を考えれば、まずもって沢さん自身が躊躇すべきではなかったのか。 僕にはそう感じられてならない。 そして、この件は、京都学生演劇祭における沢さんの立ち位置の問題と少なからず関係してくる。 すでに前回の演劇祭終了後、SNS上で私的に直言したことでもあるけれど、本来は上述した如くオルガナイザー、精神的支柱に徹すべき沢さんが、客観的に観て全く得意とは思えないスタッフワークに介在しなければならない現状は、カリスマ性のある社長自らがお茶を汲んでお客さんに出そうとしたまではよいが、どうにも不器用なためにお茶をこぼして誰にとっても残念、という状況に喩えられるのではないか。 人材の育成、役割の継承という点も含めて、京都学生演劇祭の運営面での大きな課題であると僕には思われる。 (もう一点。観劇レポーターの人選の経緯に関してはあえてここでは詳述しないものの、審査員やユーストリームでの中継に参加した「先輩」方を含め、そのほとんどが男性で占められていたということにも、僕は違和感を覚えた。諸々の事情が重なった結果であることは承知しているけれど、次回以降の重要な課題の一つとしてここで指摘しておきたい) いずれにしても、京都学生演劇祭が拡大路線を貫くのか、現状を維持するのか如何に関わらず、(そのコンセプトに沿って)沢さんと実行委員の皆さんを様々な観点から大きく支え、ときには厳しいチェックも行うブレーン的な存在が必要であるように、僕には考えられる。 運営方針、運営形態の具体性を欠くままで見切り発車を重ねた結果、沢さん一人が懊悩苦闘するのみならず、実行委員の皆さんや参加団体の皆さんの負担や不満が極限に達し、全国学生演劇祭ばかりか京都学生演劇祭も中途倒れに終わってしまうということだけは、なんとしてでも避けねばなるまい。 加えて、経済的な事情は充分承知しつつも、演劇祭中の交流スペースの復活も考慮した物質面での場所の確保も含む、活発な意見交換が一層促されるべきであるとも、僕は考える。 拙文が京都学生演劇祭全般に関する健康的で風通しのよい議論の一助となれば幸いである。
by figarok492na
| 2014-09-21 15:03
| 観劇記録
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