☆努力クラブ10『船の行方知らず』
作・演出:合田団地 (2015年11月7日19時開演の回/アトリエ劇研) 人の努力はその人の努力によってのみ評価されるべきだ。 という言葉をモティーフに、努力クラブの公演の感想を記そうと思っていたが、観ているうちに、これは二重、どころか三重底の残酷さをためた作品だなと強く感じるようになった。 で、終演後のアフタートークで、合田君とゲストの月亭太遊さんのそれぞれの口から、「二重、三重」といった言葉や、「残酷」といった言葉が飛び出したから、まさしく我が意を得たりと思わずにはいられなかった。 努力クラブにとって10回目の本公演となる『船の行方知らず』は、学生時代(佛教大学の劇団紫)に上演した作品を下敷きに、今回の座組用に新たに書き直したものだという。 あえて詳細は省略するが、登場人物が旅行(と、言うよりも、ある種巡礼的遍路的な彷徨)をするという展開や、叙情性、言語感覚や散文的なセンスの高さ等々、合田団地らしさに満ちた内容となっていた。 中でも、「さみしさ」を抱えた登場人物たちが、その「さみしさ」がゆえにいびつで抜き差しならぬ道を歩んでしまう、そしてそれが、どうにもおかしいグロテスクな笑いにつながっていくという残酷さは、合田君ならではの表現だと思った。 しかも、そうして描かれた表面的な事象や感情が、額面通りに受け取ることのできない、一筋縄ではいかない、裏読みの必要なものであるという意味で、言葉を換えれば、結局観る側は道半ばで放り出されているに過ぎないという意味で、二重に残酷な作品だと痛感もした。 もちろん、そこには合田君の表現者としての含羞もあるだろうし、タイトルを思い起こせば、いや全くその通りと言うほかはないのだが。 (そうそう、終演後、ここ何回かの努力クラブの作品と比較して、ある人がこの『船の行方知らず』の対社会性の希薄さをしていたのだった。その指摘自体には大いに首肯するし、合田君の意図とも異なるかもしれないが、玉の井通いじゃないけれど、永井荷風の『濹東綺譚』の如く、主人公となる男性と女性の視点を中心とした結構そのものが、ある種の抵抗、それが大げさならば、社会との関係性の持ち方の提示と言えるかもしれない) 三重目の残酷さ。 それは、この『船の行方知らず』から、合田君と個々の演者との関係性、より生な言葉を使えば、個々の演者の特性魅力を合田君が如何にとらえたかということ、個々の演者への合田君の興味関心把握距離好悪の情があまりにもあからさまに示されていたことだ。 そうした中、西マサト国王は、ウッディ・アレンとジャック・レモンを足して二で割ってより没我的にしたかのような演技で、主人公のおかかなしさ、痛切さ切実さを表現していた。 一方、熊谷みずほは、合田君の「求める」ヒロイン像をよく体現していたのではないか。 また、役柄の変化に合わせていつも以上の集中力を見せた川北唯をはじめ、丸山交通公園、稲葉俊、横山清正、森田深志、九鬼そねみ、佐々木峻一も、一部を除き、笑いの感覚の良さ、作品世界に沿った演技、熱量の強さ、今回の作品公演への割り切り方など、各々自身の形で努力を重ねていた。 ただだからこそ、そうした残酷さと直面したからこそ、集団とは何か、組織とは何か、表現活動における共同作業とは何かということに思い至らざるを得なかったことも事実だ。 そして、他人への情けは巡り巡って自分のためになるという本来の意味合いの「情けは人の為ならず」という言葉をもじって、「努力は人の為ならず」という言葉を最後に付け加えておきたい。 9日昼までの公演。 ご都合よろしい方はぜひ。 ああ、面白かった!
by figarok492na
| 2015-11-08 02:24
| 観劇記録
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