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犬神家の末裔 第4回

 早百合が物思いにふけっているうちに、新幹線は那須駅に着いた。
 長野新幹線が開業してからというもの、一時間半足らずで東京と那須は結ばれるようになった。
 ただ、時間的な距離が短くなった分、精神的な距離も短くなったかといえば、たぶんそれは違うと早百合は思う。
 電車を降りたとたん、冷たい風が早百合の頬を打った。
 バッグの中からマフラーを取り出して、早百合は首に巻き付けた。
 たった一時間半の差で、これだけ気温が違う。
「早百合さん、ですよね」
 早百合がはっとして視線を移すと、若い男性を連れた長身の壮年の男性が、東京行きのホームに向かおうとしているところだった。
 端正な声にもしやと思っていたら、やはり彼だった。
「ご無沙汰しております」
 早百合が頭を下げると、先方も同様に頭を下げた。
「お母様、早くよくなりますように」
 男性はもう一度頭を下げてから、階段を上がって行った。

 駅の玄関口を出ると、メールに書かれていた通り、バスロータリーの隅に青のボルボが停まっていた。
 早百合が軽く手を振ると、運転席の睦美が頷き返す。
 かまってかまってかまってちゃん。
 こまったこまったこまったちゃん。
 助手席のドアを開けると、流行りを過ぎたアイドル・グループの陽気を装った歌が零れてきた。
「お疲れ」
「そっちこそありがとう」
 睦美は小枝子の次女の美智子の長女だから、早百合にとっては、はとこにあたる。
 早百合とは、八つ違いだ。
「母さんの具合は」
「軽い心筋梗塞やって。詳しくは和俊おじさんが説明してくれると思うけど」
「そっか」
「そしたら出すね」
 ゆっくりとボルボが動き始めた。
「あっ、さっき石坂さんに会ったよ。母さんのことも知ってたんでびっくりした」
「石坂浩二、昨日うちに来てたんよ」
 バックミラーを気にしながら、睦美が応えた。
「えっ、うちに」
「うん。なんか今度WOWWOWで金田一耕助の特集やるんで、また那須で撮影するんやって。で、その前に戌神家にもご挨拶にって」
「知らんかった」
「おばちゃん、調子がようないもんですからって挨拶しただけですぐに部屋に戻ったんやけど。信光がもう大はしゃぎしてかなわんかった」
「信光君、いくつやったっけ」
「再来月で九歳」
 睦美が軽やかにハンドルを切った。
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by figarok492na | 2016-04-08 10:42 | 創作に関して
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