☆ドイッチ:映画音楽集
ウィリアム・ストロンベルク指揮モスクワ交響楽団
<MARCO POLO>8.225169
バロック期以降、歌劇や劇附随音楽といった劇場用音楽の作曲が、作曲家のその他の作品の作曲に大きな影響を与えたように、20世紀においては映画音楽の作曲が、作曲家のその他の作品の作曲に大きな影響を与えた。
特に、1930年代後半のアメリカでは、映画そのものの黄金時代と、ナチズムやファシズムの台頭による少なからぬ作曲家の亡命が重なり、映画音楽と純粋音楽の相互作用が一気に進んだ。
今回とり上げるのは、そうしたハリウッド全盛時代を代表する作曲者の一人、アドルフ・ドイッチの映画音楽を集めた一枚である。
(なお、名前はアドルフ・ドイッチだが、彼はドイツからの亡命者ではない。ドイッチはロンドンの生まれで、後にアメリカに渡った作曲者で、『アニーよ銃をとれ』、『バンド・ワゴン』、『掠奪された七人の花嫁』、『お熱いのがお好き』、『アパートの鍵貸します』などの音楽も担当している)
ここでは、ワーナー・ブラザーズ製作の、ジョン・ヒューストン監督、ハンフリー・ボガード主演による、おなじみ『ハイ・シエラ』と『マルタの鷹』の他、『ジョージ・ワシントンは此処に眠る*』(1942年、ウィリアム・キーリー監督、ジャック・ベニー、アン・シェリダン)、『仮面の男』(1944年、ジーン・ネグレスコ監督、ピーター・ローレ)、『北部への追撃』(1943年、ラオール・ウォルシュ監督、エロール・フリン)が収められているが、いずれをとっても作品の世界観によく添った、耳なじみのよい音楽だと思う。
また、ウィリアム・ストロンベルク指揮モスクワ交響楽団は、いわゆるポップス風の編曲ではない堅実な演奏で、基本的に不満はない。
内容が内容だけに、一般的なクラシック音楽愛好者向けのCDとは言えないが、古いハリウッド作品に親しんでいる方には強くお薦めしたい一枚だ。
*原題は、GEORGE WASHINGTON SLEPT HERE。
この作品は国内未公開のようで、上記の題名は筆者による仮のものである。