アトリエ劇研まで、劇研アクターズラボ発表公演vol.4『極楽トンボの終わらない明日』(高橋いさを原作、田中遊さん脚本・演出)を観に行って来た。
劇研アクターズラボとはアトリエ劇研で行われている演劇に関するワークショップで、演劇ビギナーのためのフレッシュコース参加者による発表公演を観るのは、前回に次いで2回目ということになる。 で、まずもって、個々の演技者陣の努力や熱意、そしてお芝居に取り組むということへの切実な想いが舞台からストレートに伝わってきた点にはとても好感が持てたし、微笑ましくもあった。 それに、特につかこうへいばりの力演熱演が観られた終盤をはじめ、そうした演技者陣の内面の切実さと個々の登場人物の切実さ、さらには作品そのものの持つ切実さがうまくリンクして、はっとさせられた部分もあった。 また、いわゆる「笑い」の部分や岩井俊二か林海象かと言いたくなるようなラストはあまり自分の好みに合わなかったとはいえ、どこか学芸会的なのりすら感じさせる田中遊さんの演出も、与えられた条件を考えれば、作品の設定に添うという意味でも演技者陣の個性を活かすという意味でも、基本的に理解のいくものであった。 加えて、川上明子さんの舞台美術も、田中さんの演出や演技者陣の演技によく合っていたとも思う。 (なお、鴻上尚史の『天使は瞳を閉じて』など他の80年代演劇と通底する、高橋いさをの作品世界については、その現在における意味も含めて詳しく語りたくはあるのだが、アクターズラボ参加者との兼ね合いもあってテキストの書き換えが行われていることもあって、ここではあえて省略する) 一方で、たとえ演劇初心者を中心とした公演であるとしても、いわゆる系統的なワークショップに参加し、今後も演劇を熱心に続けていこうと考えている面々による舞台であるということ(そして、前回の公演にも出演していた参加者が少なからずいるということ)を考えれば、どうしても指摘しておかなければならないことがあることも事実だ。 と、言っても、台詞まわしや感情表現のギアチェンジの仕方、演技者間どうしの距離感、アンサンブルとしてのまとまりといった技術的な問題に関して触れたい訳ではない。 そうした問題は、田中さんをはじめとした関係者のアドバイスを受けながら、次回の公演に向けての課題として個々の参加者が自覚すべきことだし、実際そうすることができると信じている。 僕が気になったのは、表面的な上手下手、単なる技術的な問題ではなく、与えられた登場人物=役柄の切実さと自己の内面の切実さとが重なり合っていないこと、それが言い過ぎなら、その重なり・リンクがぶつぶつと切れてしまい、持続されないままに終わってしまっている点である。 そしてそれは、稽古場での頑張りは十二分に予想される反面、稽古場以外の場所で個々人に演技者としての「センサー」が充分に働いていないのではないかという疑問へともつながってくる。 言い換えると、それは演じるという行為に対しまだあまり自覚的ではないのではないかということだ。 例えば、この作品では囚人という存在が重要な位置を占めるが、今回囚人という役柄を与えられて、そういう役柄がこれまでにどのように演じられてきたかを各演技者陣はどこまで掘り下げて考えきれたのか。 (一例を挙げれば、小林正樹監督の『壁あつき部屋』という古い映画はこの作品を演じる際にも示唆するところは小さくないと思う。そして、ドストエフスキーの『地下室の手記』も*) もちろん、テキストを覚え舞台に立つということがどれほど大変かは僕も承知している。 けれど、せっかくこうしたワークショップに参加し、これだけ頑張っているからこそ、ただ与えられた場所で努力を繰り返しているだけでは非常にもったいないとも僕は思うのだ。 それと、僕自身は今回公演を観て損をしたとはちっとも思っていないが、やはり1500円(当日1800円)というチケット料金は公演の性格を考えても、いや考えるからこそ、残念ながら高く設定され過ぎていると言う他ない。 同じ京都小劇場界を見ても、1500円を出せばベトナムからの笑い声の公演を観ることができる。 僕自身の興味関心から言えば、1500円を出せば京都市交響楽団の定期演奏会をP席で聴くことができる。 1500円を出せば、フルプライスの新譜は無理としても、中古の輸入盤は楽勝で買うことができる。 僕は京都シネマの会員だから、1000円で1本映画が観れて、残りで紅茶を飲むことができる。 1500円を出せば、最低でも新刊は1冊、ブックオフなら105円の本を14冊買うことができる。 そのことの重みを、出演者の面々はしっかり自分のものにしておかなければならないのではないか。 少なくとも、自分の目の前にあるシステムや状況とどう向き合っていくかということが今回の作品の肝なのだから、今自分が参加し出演している舞台のチケット料金がこれでいいのかという疑問ぐらいはぜひとも抱いておいて欲しい。 非常に勝手な物言いとなってしまったが、次回の公演ではこうした僕の言葉を跳ね返すような舞台を、今回以上に充実した舞台をぜひとも見せてもらいたい。 皆さん、頑張って下さい。 本当に愉しみにしています。 *もう一つ、この作品と深い関係がある映画があるのにとずっと考えていて思い出した。 先頃亡くなったポール・ニューマン主演、スチュアート・ローゼンバーグ監督の『暴力脱獄』がそれだった。
by figarok492na
| 2008-10-13 00:05
| 観劇記録
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