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アンドレ・プレヴィンのN響首席客演指揮者就任を祝しつつ

 ☆リヒャルト・シュトラウス:交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』、『死と変容』

  アンドレ・プレヴィン指揮ウィーン・フィル
  1987年、デジタル録音
  <TELARC>CD-80167


 かつてコント55号で売れっ子時代の萩本欽一が小林信彦から実験映画の企画を持ちかけられて、
「本当にやりたいことは、一度、人気が落ちないとできませんね」
と、語ったことがあるという。
 小林さんの労作『テレビの黄金時代』<文春文庫>の第十三章「萩本欽一の輝ける日々」に記された一挿話だが、そういえば、僕にも似たような経験があった。
 もう15年近く前になるだろうか、名前を出せばあああの人ね、と多くの人が首肯するだろう人気作家の一人と一度だけお会いする機会があった際に、徹夜明けの仮眠後で少しくたびれた様子の氏が、
「書きたいと思うことを書くには、あまり売れ過ぎないこと」
という趣旨の言葉をぽつりと漏らしたのだった。
 まあ、ここで気をつけておかなければならないのは、一度人気が落ちるにせよ、あまり売れ過ぎないにせよ、そこそこには認められていなければならない、言い換えれば、歯牙にもかけられないどん底状態にあっては元の黙阿弥、それはそれでやりたいこともやれない苦境に追い込まれるだろうということだけれど。
 で、なぜこんなことを思い起こしたり考えたりしたかというと、アンドレ・プレヴィンがウィーン・フィルを指揮したリヒャルト・シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』と『死と変容』を聴いているうちに、今度彼がNHK交響楽団の首席客演指揮者に就任するということを思い出したからである。
 すでにプレヴィンとN響には15年以上の関係があるわけだから、フランス・ブリュッヘンと新日本フィルの組み合わせほどには、この期に及んで感はないものの、それでもやっぱり「おそかりし由良之助」ならぬ「おそかりしプレヴィンよ」という感情、感慨を抱かざるを得なかった。

 さて、そんなアンドレ・プレヴィンにとって、彼がウィーン・フィルと組んでテラーク・レーベルに録音した一連のリヒャルト・シュトラウス作品は、プレヴィンという指揮者のピークを代表する仕事の一つと数え上げることができるのではないか。
 特に、今回取り上げるツァラトゥストラはかく語りきと死と変容が収められた一枚は、歌うべきところをよく歌わせたプレヴィンのツボを押さえた音楽づくりと、ウィーン・フィル及び録音会場であるムジークフェラインの音色の豊かさを活かした優れた録音技術とがあいまって、実に聴き心地のよい仕上がりとなっている。
(ただし、音楽のつかみ方という意味では、デヴィッド・ジンマン指揮チューリヒ・トーンハレ管弦楽団によるシャープでクリアな演奏のほうが、より作曲家自身のそれに近いような気もするが)
 ところどころ、映画音楽っぽいというか、ちょっと詰めが甘いかなと感じてしまう部分もなくはないが、「リヒャルト・シュトラウスなんだから、ただ鳴ってりゃいいじゃん! ズビン・メータ最高!!」なんてことを口にしない人たちには、安心してお薦めできるCDだと思う。

 ところで、『ぶらあぼ』4月号の小耳大耳などによると、アンドレ・プレヴィンは今後N響と自作自演を含む意欲的なプログラムを予定しているそうだ。
 それこそ、本当にやりたいことができるようになったということかな、アンドレ・プレヴィンも。
 いずれにしても、アンドレ・プレヴィンにとってNHK交響楽団との共同作業が、彼の指揮活動の集大成となることを強く期待してやまない。
(「なんで、そうなるのっ!」、と呼ぶ声あり)
by figarok492na | 2009-03-26 12:57 | CDレビュー
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