☆京都市交響楽団第526回定期演奏会
指揮:大野 和士 座席:3階 RB-1列5番 大野和士という指揮者の実演に接したのは、1990年11月の関西二期会の公演が初めてだった。 出し物は、ヴェルディの初期の傑作『リゴレット』で、伴奏の京都市交響楽団の音の日頃の演奏との大きな違いによい意味で驚くとともに、大野さんのテキストの読み込みの深さと音楽的な集中力の高さから、なみなみならぬ才能を強く感じたことを未だに記憶している。 それから約20年。 その大野和士が初めて京都市交響楽団の定期演奏会の指揮台に立つということで、喜び勇んで京都コンサートホールまで足を運んだ。 (なお、この間、2006年7月の大阪フィルの第400回定期演奏会で大野さんの指揮に触れて大いに満足したことは、かつて本家CLACLA日記にも記したところである) まず、開演20分前からのプレトークでは、先日亡くなった若杉弘の追悼のためにバッハの管弦楽組曲第3番からアリアが演奏されることが伝えられ、大野さんと若杉さんとのかつてのエピソードが語られたほか、今回演奏されるラヴェルやショスタコーヴィチの演奏のツボについて簡にして要を得た解説が行われていた。 特に、ショスタコーヴィチの交響曲第5番がらみで、自身のミラノ・スカラ座デビューを飾った歌劇『ムツェンスク郡のマクベス夫人』や、第9番までの一連の交響曲との関係性を的確に説明していた点が、個人的に興味深かった。 さて、追悼にも関わらず拍手の起こったバッハのアリアののちに、本来のプログラムの一曲目であるラヴェルの『ラ・ヴァルス』が演奏されたが、この『ラ・ヴァルス』から、僕は大野和士と京都市交響楽団の演奏に心をぐっとつかまれてしまった。 と、言うのも、ウィンナ・ワルツのパロディであり、それへのオマージュであり、さらには時代の反映でもあるこの曲の性格を明確に描き上げるとともに、音量の適切さ、強弱のバランス感覚という意味でも、大野さんと京響は優れた演奏を行っていたからである。 続く二曲目、同じラヴェルの組曲『マ・メール・ロワ』は、一転して小編成での演奏となったが、大野和士と京都市交響楽団は、端正でコントロールのとれた演奏を重ねながら、作品の持つ幻想的な性格や繊細で洗練された雰囲気を見事に表現し切っていたと思う。 そして、メインのショスタコーヴィチの交響曲第5番は、これはもう、圧倒的な名演と評したくなるような素晴らしい演奏だった。 ショスタコーヴィチのこの交響曲に関しては、これまで様々な解説や解釈が為されてきたが、大野さんはテキストを徹底的に読み込むことで、作品に潜む暴力性や諧謔性、恐怖の感情や痛切な感情、同時代性、「共通感覚」といった様々な性質を、過不足なく語り尽くしていたと言っても誤りではないだろう。 また、ここで忘れてならないことは、そうした表現が分裂したものとして過剰に行われるのではなく、一つの線、一つの音のドラマとしてまとまりを持って行われていたということである。 正直、音楽を聴いているだけで身体中が汗ばんでくるほどの求心力を持った演奏だった。 中でも、第3楽章の真摯さと美しさには強く心を動かされた。 (この第3楽章のあとに来る第4楽章の、なんと嘘臭いこと! 大野和士はそのことをしっかりと演奏で示していた) 今や世界的に活躍の場を拡げている大野さんのことゆえ、実は、京都市交響楽団の指揮台に立つのはこれが最後ではないのかとふと思ったりもするが、それはそれとして、本当に足を運んでよかったと記すことのできる素晴らしいコンサートだった。 心から満足がいった。
by figarok492na
| 2009-07-24 00:57
| コンサート記録
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