☆モーツァルト:歌劇『クレタの王イドメネオ』公演
指揮:コリン・デイヴィス 管弦楽:ウィーン国立歌劇場管弦楽団 会場:ウィーン国立歌劇場 久しぶり、と言っても一週間とちょっと。 再びウィーン巡察を決行した。 今回は、ウィーン・シュターツ・オーパーの『クレタの王イドメネオ』が目的。 寝台車を購入したもののほとんど睡眠がとれず、ウィーンについてホテル(ペンション)を予約。着いて、ありゃりゃと思ったが、中に入ってみるとなかなか良いペンションだった。 ただ、ここの体重計で体重を計って60キロぐらいしかなかったのはショックだった*1。いくらなんでも痩せ過ぎ。ただのストレス…、とかとは思えない。たぶん、何か悪い病気では?*2 まずは栄養不足とむちゃのし過ぎだろうということ。 「体重を増やすように」と意気込むとますます悪くなるだろうから…。 ただ、胃腸が気になる…*3。 さて、『クレタの王イドメネオ』。 早めに行ってみたものの、もう行列が出来ていた。 ただ、思っていたより簡単にシュテー(立ち見)が手に入った。 1階(PARKETTE)のシュテーで、前の人物がうろちょろするのが困るくらいで、音も良く聴こえるし、舞台も良く見える。 指揮は、コリン・デイヴィス。 「中庸」の人というイメージがあって、その音楽は大人しいものと思っていたが、フォルテシモなど強烈だった。 時折、ウィーン国立歌劇場管弦楽団(ウィーン・フィルの母体)はちょっとしたミスもしたが、弦・管の音ともさすがに素晴らしく、このオケの質の高さを確認した。 序曲が始まったとたん、他のオペラとは違う雰囲気が漂う(と、自分で思っているだけ?)。 ただ、アーノンクールの指揮で聴ければ、もっとよかっただろうに、というのは贅沢か?*4 演出は、ヨハネス・シャーフ。 コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラが来日した際、ダ・ポンテ三部作でその鬼才ぶりを発揮した人物。今回も、舞台美術等は、非常に斬新なものだったが、それほど奇をてらったものではなかったと思う*5。 エレットラのアリアのとき、ペンキでハートを描くのだけは「?」だが、例えば終幕など、イドメネオという人物の内面のエゴイズムと子供への情愛の葛藤が感じ取れた。 アルバーチェは自殺したが、エレットラがすんでのところで死ななかったのもよい。彼女は死ぬ必要はない(と思う)。 音楽としては、セリアという様式が難しいのか、途中で帰る人も結構いたが、私は、本当に愉しめた(もちろん、肉体的には疲れたけど)。 セリアの手法をとっているが、その音楽は、すでにのちのダ・ポンテ三部作に通じるものがある。 イドメネオの苦悩を表わすアリアや、イリアとイドメネオの二重唱、合唱、イダマンテとイリアの二重唱、イドメネオ、イダマンテ、イリア、エレットラの四重唱、など表面的な音楽というより、登場人物各々の感情、性格がよく浮き彫りにされているのではないだろうか。 ヴァレスコの台本は、モーツァルトから古臭いと言われたものだが、「人間にとっての愛」というモティーフは、後期の作品につながる重要なテーマだろう*6。 それと、第一幕で、合唱が「リベルタ(自由)」と歌っている部分がある。 『ドン・ジョヴァンニ』にもあるが、当時としては、どれほどの意味があったのか興味深い*7。 さて歌手陣。 イドメネオは、ジークフリート・イェルサレム。 ワーグナー歌手として活躍している(いた?)テナー。イドメネオという役には少々くせが強いかも。気品のほうも今一つか? 情感をこめた歌いぶりだが、拍手は今一つしない。 と言っても、見事に歌い切ってはいたが。 イダマンテは、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター。 彼女は良かった。 最初、大きな声の出し過ぎではと思っていたが、幕を重ねるごとに歌が締まってきたよう。声も美しいし、シュターデが年をとったあとは彼女がズボン役の女王(変な言葉)となるのではなかろうか。 気品もあった。 イリアのノルベルク=シュルツは、伸びのある声、そしてまた、美しい声をしている。 少し背が低いのが難だが、今後活躍するのでは? エレットラのコエルホ。あまり好きな声質とは言えないが、コロラトゥーラの難技を一応ものにしていた。最後のアリアは、力で押し切ったと言えなくもないけれど…。 でも、貴重な歌手だろうとも思う。 アルバーチェのブルンナーはまあまあ。 大祭司だけは、なんだかなあ。少々興ざめ。喉に詰まったような声の出し方。しかも、声の出にちょっとしたずれがあった。 オケが少しミスをしたなどと記したが、これだけの演奏、上演をほぼ年中観聴きできるのだから、ウィーンを羨ましく思う反面、これでよいのだろうかという思いもわずかに。 それにしても、『クレタの王イドメネオ』は、これだけの面々がそろえば、飽きることなく愉しめる作品なんですねえ! 1:身長が179センチとちょっとだから、これは痩せ過ぎだ。高校時代の80キロオーバーは肥え過ぎかもしれないが…。 2:癌をはじめ、重篤の病のこと。僕は、大学2回生の頃から「自分は癌なのではないか?」と周囲によく口にしていた。それから20年近く経って、僕は痛風を患っている…。 3:以上の部分は本当はカットしたいが、あえてアップすることにした。みったなくてしゃあないけれど、これはこれで記録だしね。 4:このプロダクション(演出等の一セット)のプレミエ時の指揮は、ニコラウス・アーノンクールだった。しばらくして、今回のコリン・デイヴィス指揮の公演の批評を目にしたが、あまり芳しいものではなかった。 5:上述した批評によると、再演に際し、シャーフの演出に大幅な変更(カット?)が加えられたようだ。 6:文章・言葉として不本意だが、そのままにしておく。 7:こうした点に関しては、アンソニー・アーブラスターの『ビバリベルタ! オペラの中の政治学』<法政大学出版局>が詳しいはずだが、5670円というけっこうな値段がすることもあって、未だ読めないでいる。また、『ドン・ジョヴァンニ』中の「リベルタ」といえば、どうしても佐藤亜紀の『1809年 ナポレオン暗殺』<文春文庫>を思い出すが、以前別の形で記したことがあるので、ここでは省略する。
by figarok492na
| 2009-08-30 13:57
| 欧州音楽日記
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