☆クリスティアン・ベズイデンホウト フォルテピアノ・リサイタル
会場:兵庫県立芸術文化センター小ホール
座席:1階 PB列12番
吉川潮との対談で、春風亭小朝が落語の本来のキャパシティは多くて200席程度といった言葉を口にしていたと記憶しているが、その伝でいくならば、フォルテピアノの本来のキャパシティは多くて500席程度ということになるのではないか。
むろん、1000席だろうが2000席だろうが3000席だろうが、リサイタルを開きたいというのであれば、どうぞご随意にと演奏家だの興行主だのにお任せするしか手はないけれど、大ホールでフォルテピアノを聴いてみたいとは正直僕には思えない。
で、フォルテピアノ奏者のクリスティアン・ベズイデンホウトが兵庫県立芸術文化センターでリサイタルを開くという。
このホールの座席数は417。
もちろん、迷わず聴きに行って来た。
今回は、オール・モーツァルト・プログラムということで、途中休憩を挟みつつ、ピアノ・ソナタ第18番、幻想曲ハ短調、ピアノ・ソナタ第16番、「我ら愚かな民の思うは」による変奏曲の計4曲が演奏されたが、これは期待どおり、いや期待以上のリサイタルだった。
プログラムされた作品もあってか、強弱の変化を激しく強調するバロック的なスタイルではなく、ベズイデンホウトは旋律の持つ美しさや歌謡性を丹念に描き込み、歌い込んでいたように思う。
中でも、ソナタの第2楽章や幻想曲(静と動の見事なコントラスト)に、ベズイデンホウトの特質がよく表われていたのではないか。
一方、ソナタの両端楽章や変奏曲では、ベズイデンホウトの技量の高さや作品の構成の把握の確かさが示されていて、こちらも充分に納得がいった。
なお、今回のリサイタルに使用された楽器は、アントン・ワルター製のレプリカと公演プログラムにはあったが、演奏曲目とベズイデンホウトによく合った明解でクリアな音色のように感じられた。
(もう一ついえば、今回のリサイタルでは、モーツァルトが楽器の特長特性をよくつかんだ上で作品を創り出していることが再確認できた)
これで、演奏途中の不用意な咳やアラームがなければ、さらに言うことなしだったのにと、その点だけが少し残念である。
アンコールは、同じくモーツァルトのピアノ・ソナタ第10番から第2楽章と第3楽章。
こうなると、ベズイデンホウトの演奏したモーツァルトのピアノ・ソナタ全曲がぜひとも聴きたくなってくる。
次回のリサイタルが本当に待ち遠しい。