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日韓合同プロジェクト『旅行者』

 ここのところ、新聞の国際面を開くと、ベルギーの総選挙で、北部オランダ語圏の分離独立を訴える新フランドル同盟が第一党となったことが伝えられている。
 政治家が率先して「単一民族」だなどと口にするような国家に住む人間には、今ひとつぴんとこないニュースかもしれないが、事ベルギーにとどまらず、「分離独立」にまつわるせめぎ合い、争いは、洋の東西を問わず、避けては通れぬ大きな問題の一つなのではないか。

 などということを、日韓合同プロジェクト『旅行者』(田辺剛さん作、ウォン・ヨンオさん演出)を観ながら、ふと思ったりした。
 ただし、そういう風に想いや考えを巡らすことができるのは、僕が京都芸術センターでこの作品の初演や、精華小劇場での再演を観ていたことがまずもって大きいということも否定できないが。

 それはそれとして、ウォン・ヨンオさんの演出の下、韓国で活動する劇団ノットルの演者4人、そして日本側から選抜された4人の計8人で演じられた今回の『旅行者』を、僕は、初演再演時とは、より突っ込んでいえば、田辺剛さんのオリジナル作品とは大きく異なるものとして観た。

 と、言うのも、まずこの公演では韓国側の演者陣がハングルで台詞を口にし、日本側の演者が日本語で台詞を口にするというスタイルがとられていたからだ。
 それは、当然のことながら、両国の言葉に通じないかぎりは、田辺さんのテキストが本来持つ様々な想いや含みを、残念ながら受け止めることはできないということになる。
 僕自身は、先述した如く初演再演と『旅行者』を観ていることで、話の流れを充分に追うことができたし、ノットルの面々が発するハングルの音楽的な美しさを感じることもできはしたが。
 が、しかし、『旅行者』を初めて観る人にとって、果たして今回のスタイルが適切なものだったかどうかは、やはり疑問が残る。
 今回の日韓合同プロジェクトのコンセプトや意義は了解した上でなお、次善の策があったのではないかと考えたことも事実だ。

 また、異なる、という意味では、ウォン・ヨンオさんの演出も、これまでの田辺剛さんの演出と大きく異なるものだったと言えるだろう。
 身体性、という点ももちろんそうだけれど、個人的には、韓国の映画やドラマを観るような劇性というか、明確さやシンプルさを強く感じたりもした。
 例えば、姉妹たちが「訪問」する夫妻が極端にキャラクタライズされていたこととかもそこには含まれる。
(夫妻役の平岡秀幸さん、広田ゆうみさん、ともに力演だった。余談だけれど、平岡さんには、仲代達矢演じる黒澤明監督の『乱』の一文字秀虎を思い出した。炎上シーンの)

 演者陣では、感情表現や共通感覚の彼女彼らと我の違いを強く感じつつも、やはり劇団ノットルの面々の技術的な力量の高さを評価しなければなるまい。
 また先述した二人に加え、宮部純子さん、森衣里さんの日本側の面々も、少なからぬ制約の中、健闘していたのではないだろうか。
 特に、宮部さんの奮戦ぶりが僕には強く印象に残った。

 いずれにしても、様々な違いを実感させられた公演だった。
by figarok492na | 2010-06-20 13:58 | 観劇記録
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