木を見て森を見ず、という言葉があるが、ジゼル・ヴィエンヌ構成・演出・振付・舞台美術の『こうしておまえは消え去る』(京都芸術劇場春秋座)を観ながらふと思い浮かんだ言葉は、森観て木は観えず、だった。
そう、春秋座の舞台一面に造り込まれた森は、ヨーロッパの鬱蒼としたあの森の姿の一端を想起させるに足り得る壮観であったと評しても、まず間違いはないだろう。 果たして、いったいここで何が演じられ表現されるのか? 舞台上の森を観るだけで、なんとも胸がわくわくする。 (と、言うと嘘になる。KYOTO EXPERIMENTの記者会見でこの公演の映像を目にした段階で、これはいわゆる「壮大な退屈」の系譜に連なる作品になるんじゃないかとちょっと危惧の念を抱いていたのだ、僕は…) が、しかし、上演が始まってすぐに、そうした期待はどこかに雲散霧消してしまった。 もちろん、演者陣の力量は充分評価に値するものだろう。 だが、春秋座という比較的大きな劇場の中では、彼彼女と僕との間の距離があまりに遠すぎて、正直、心を動かされるほどには強い何かを感じ取ることができないのだ。 おまけに、やたらと舞台に演者が寝転がるものだから、前のお客さんの頭が邪魔になって(と、言うことは、きっと僕の頭も邪魔をしていたことだろう)、首や頭を動かさなければ演者の姿が観えないという有り様。 まさしく、森は観えるものの、細部の木々は観えにくいという状態にもどかしい想いをする。 かてて加えて、森観て木は観えず、という言葉は、ジゼル・ヴィエンヌの作品世界そのものにも当てはまるのではないか。 ジゼル・ヴィエンヌが創り出した舞台を通して、確かに彼女が何を描こうとしたか、その大筋と大枠はわかる。 けれど、いざ細かくそれを感じ考えようとすると、何かそれらしい雰囲気はありつつも、結局霧(中谷芙二子の「霧の彫刻」は、素晴らしかった。特に中盤劇場が霧で包まれるあたりは、やはり圧巻だろう)のようにもやもやとしたままで、今ひとつ僕にはぴんとこない。 (たぶん、終演後のアフタートークで一つ一つの情景や演技への詳しい意味付けが行われるんだろうなと予想はしたが、そういう後出しじゃんけんみたいなやり方には興味がないので早々に退散した) それどころか、デニス・クーパーのテクスト(それ自体はとても切実で痛切な内容だとは思う)や、人形、さらにはラストの鳥たちの登場すら、僕には全てが単なるほのめかしに感じられてならなかったほどである。 むろん、ほのめかしにはほのめかしの魅力があって、中でもフランスのアーティストたちのほのめかしのセンスにはこれまでもたびたび脱帽してきはしたが、同じほのめかしを愉しむのであれば、僕はまだクロード・シャブロルのそれをとる。 (余談だけれど、森の美しさなら、これはアメリカの作品だが、アルフレッド・ヒッチコックの『ハリーの災難』がいい) いずれにしても、約1時間15分という上演時間が、僕にはどうにも長く感じられて仕方がなかった。
by figarok492na
| 2010-11-07 22:38
| 観劇記録
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