☆ボーウェン:交響曲第1番、第2番
指揮:アンドリュー・デイヴィス 管弦楽:BBCフィル 録音:2010年10月(デジタル/セッション) <CHANDOS>CHAN10670 人に慣れ親しまれた役回りを受け継ぐということほど難しいものはない。 これはあくまでも個人的な感じ方だと断った上でのことではあるけれど、例えば雨森雅司の声に慣れた耳からすると富田耕生のバカボンのパパはあまりにももっさく聴こえて仕方がないし、その後船越英二、高島忠夫、名古屋章(スペシャルでは神山繁、伊東四朗)とベテランどころにバトンタッチされた『暴れん坊将軍』の爺も、有島一郎演じる初代加納五郎左衛門の飄々とした中に時折かつての軽演劇時代のやってるやってる感をにじませた演技を知る者からすれば、なんともしっくりこない。 (付け加えると、『暴れん坊将軍』はシーズンを重ねるごとにレギュラー陣のキャスティングの劣化が激しくなり、どんどんアンサンブルとしての面白みに欠けていったような気が僕にはする) その点、イギリスのCHANDOSが、自国の作曲家のオーケストラ作品を任せるメインの指揮者に、ブライデン・トムソンやリチャード・ヒコックス(本当はヴァーノン・ハンドリーも挙げたいところだが、彼の場合、他のレーベルでの活躍もあったりしてCHANDOS印と言う感じがあまりしない)の後継者として、すでにTELDECでブリティッシュ・ライン・シリーズを成功させたアンドリュー・デイヴィスを起用したことは、パワフルで明快明晰、それでいて繊細さにも不足しないといった音楽性の継続という意味でも、非常に適切な選択だったのではないだろうか。 (ただし、TELDECの際のBBC交響楽団に対して、こちらCHANDOSでは、同じBBCでもマンチェスターに本拠を置くBBCフィルとアンドリュー・デイヴィスはコンビを組んでいるが) そのアンドリュー・デイヴィスとBBCフィルの演奏によるヨーク・ボーウェン(1884年~1961年)の交響曲第1番、第2番がリリースされたので、早速聴いてみることにした。 なお、生前の高い評価が嘘のように一時期忘却の彼方に置かれていたボーウェンだけれど、ダットンで室内楽作品がまとめて録音されたり、hyperionからピアノ・ソナタ集がリリースされるなど、近年復活の兆しを見せていて、今回の交響曲の録音は、さらにそのはずみとなるかもしれない。 で、世界初録音という1902年に作曲された交響曲第1番ト長調作品番号4は、3楽章構成。 冒頭の軽く飛び跳ねるような感じからして、パリーやスタンフォードに始まるイギリスの交響曲らしい作風だなあと思っていたら、あれあれ30秒から1分を過ぎるあたりになると、なんだかチャイコフスキーの『くるみ割り人形』の小序曲っぽい曲調になっているじゃないか…。 (加えて、第3楽章=トラック3の2分55秒あたりは同じくチャイコフスキーの交響曲…) まあ、確かに他者の影響を言い出せばほかにもいろいろと言えてきりがないのだけれど、基本的には軽快でスタイリッシュでよくまとまった、耳なじみのよい交響曲に仕上がっていると思う。 アンドリュー・デイヴィスもそうした作品の性質をスマートに描き込んでいて、全く嫌味がない。 一方、第1番の7年後に作曲された第2番ホ短調作品番号31(こちらは4楽章形式)は、「イギリスのラフマニノフ」という日本語カバーの惹句そのもののような冒頭のファンファーレにおおっと思うが、そのまま情念音塊一直線と突っ切らないところが、ボーウェンという人の弱さでもあり魅力でもあるのかもしれない。 エルガーを想起させる部分もあれば、同時代の別の作曲家の作風を想起させる部分もあるが、第1番に比してオーケストラの鳴らせ方が一層こなれている点も当然指摘しておかなければなるまい。 アンドリュー・デイヴィスとBBCフィルも、力感あふれた演奏でそうしたボーウェンの変化をよくとらえているように感じた。 BBCフィルの録音にはいつも感じる、レンジの狭さというか音のせせこましさ、何かすっきりしない音のもどかしさは正直好みではないが、イギリス音楽愛好家や後期ロマン派好きにはご一聴をお薦めしたい一枚だ。
by figarok492na
| 2011-04-29 16:15
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