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月面クロワッサン vol.5『最後のパズル』

☆月面クロワッサン vol.5『最後のパズル』

 脚本:作道雄、丸山交通公園
 演出:作道雄
 音楽:高瀬壮麻
(2012年11月26日19時開演の回/元・立誠小学校 音楽室)

 *劇団からのご招待


 以前にも記したことがあるかもしれないが、月面クロワッサンの面々を借り切って、『月面クロワッサンの古典パン!』というちょっとした企画を「妄想」したことがある。
 丸山交通公園の山椒魚と小川晶弘の小海老が漫才風に諍う井伏鱒二の『山椒魚』、小川君の作家が丸山君のイモリを一撃に打ち殺す志賀直哉の『城ノ崎にて』、丸山君が小川君におぶさるも、丸山君がおなじみの台詞を口にする前に小川君が潰れてしまう夏目漱石の『夢十夜』。
 森麻子と浅田麻衣が、メインとサブの役柄を交互に演じ分けたり同化したりする、至極シリアスな太宰治の『女生徒』。
 そして、最後は、作道雄演じるカンダタが稲葉俊演じる蜘蛛の糸を掴んで天国へと昇ろうとした瞬間、西村花織演じる冷酷無慈悲なお釈迦様の手によって糸を切られてまっさかさま、するとそこは丸山君演じる閻魔大王はじめ、いつもの面々が企画外企画劇場よろしく大喜利を愉しむよい意味でのぬるま湯的世界、カンダタはその居心地の良さに我を忘れるが、これではならじと立ち上がり、太田了輔演じる鬼ばかりか、閻魔大王までが天国を目指す、するとそこにまたもた蜘蛛の糸が、果たして彼彼女らは天国に昇ることができるのか、それとも…、という『蜘蛛の糸 もしくは、地獄八景月黒戯』。
 とまあ、全くもってお寒い企画なのだけれど、月面クロワッサンにとって第5回目の本公演となる『最後のパズル』で、作道君たちは、先述した『蜘蛛の糸 もしくは、地獄八景月黒戯』で伝えようとしたことやものを、とてもスマートに、とてもリリカルに描きだしていたように思う。

 日本ではないとある国、夢を持った「ユメオイビト」たちは、国家が設けた「塔」へと入り一定期間の作業を続けたのち、夢を実現させることができる、というプロジェクトが施行されている。
 そして物語は、「塔」へと行く人たちを見送り、「塔」から還って来た人たちを迎える宿屋の一室を舞台に繰り広げられていく。

 まず、全体的な感想を述べれば、京都学生演劇祭における第0回から今回までの公演(や、webドラマの『虹をめぐる冒険』)を観続けてきて、この『最後のパズル』は、もっとも面白さを感じる作品であり、公演となっていた。
 一つには、これまで幾度も指摘してきたような、「手わざ」としての過剰な笑いが抑制されていたこともあるのだが、それより何より、作道雄自身の(全部ではないにしても)今実際に強く感じ考え思っていることが、劇全体を通して、ストレートに吐き出されていたように感じられていたからだ。
(加えて、これまた幾度も指摘してきた、作道君自身の「大切な人を失った」喪失感や痛みも忘れてはなるまい)
 そしてそれは、作道君の創作者表現者としての悩みやとまどい、自負自身、希望願望と言い換えることもできるだろう。
 作道君と月面クロワッサンが、次のステップに進むための「宣言」として『最後のパズル』を造り上げたことに、心から大きな拍手を送りたい。

 しかしながら一方で、『最後のパズル』は、作道君たち月面クロワッサンという集団のクリアしていくべき課題がひときわ明確になった作品であり、公演だったとも思う。
 一例を挙げれば、「塔」というシステムをはじめ、この物語の大きな枠組み・基本的な部分に耐性はあるのか、どうか。
 そのこととも関連するが、鈴江俊郎や田辺剛、高間響ではない作道雄が、作品の相対化を狙っただろうとはいえ、国家や政治そのものに、簡単な状況説明以上に、それでいて単なるイメージとして踏み込む必要があったのか、どうか。
(特にラストには、メロドラマを装った女性の自立自律の物語である吉村公三郎監督の『夜の河』のラストで、伏線はきちんと張ってありつつも、唐突に赤旗の更新が表われてくるのと同様の違和感を覚えた。「頑張っていきたい!」という切実な意志の表現であることは、痛いほどわかったのだけれど)
 小道具への細やかなこだわり(これは凄い)と同様に、作品全体、物語全体への細やかな検証が一層必要になってくると、僕は考える。
 その意味で、プレビュー公演の設定は高く評価できるのだけれど、それ以前のプロット会議、関係者による内覧等々、来年5月に予定されている公演に向けて、早速動き始めて欲しい。

 演者陣は、限られた時間の綱渡りの中で、作品の世界観によく沿った演技を心がけていたのではないか。
 中でも、稲葉俊、森麻子の真情吐露には胸に迫るものがあったし、愚直でシリアスな役柄に横山清正をあてたことには、まさしく我が意を得た思いがした。
 ただ、最終公演ということもあってだろうが、フラットな部分での粗さ、抜けがどうしても気になったし、キャスティング、登場人物のキャラクターづけそのものにもいくつか疑問が残った。
 例えば、梶原善的な役柄には梶原善的な演技が求められるのではないか、ということや、丸山君にはさらにしばりをかけて(黒澤明監督の『どですかでん』の三波伸介や小島三児のように)淡々と普通に演じさせるとか。
 そして、これは好みの問題になるのかもしれないが、西村花織と森さんの役を交換させるとか。
 それは実は、最初に記した『蜘蛛の糸 もしくは、地獄八景月黒戯』で、森さんでも浅田麻衣でもなく、西村さんに冷酷無慈悲なお釈迦様を演じてもらいたいと思ったことにも深く繋がっていることだ。

 いずれにしても、今後の月面クロワッサンの活躍に心から期待したい。
 次回公演が本当に愉しみだ。
by figarok492na | 2012-11-27 17:17 | 観劇記録
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