☆モーツァルト:歌劇『フィガロの結婚』ハイライト
伯爵夫人:キリ・テ・カナワ(ソプラノ) スザンナ:ルチア・ポップ(ソプラノ) ケルビーノ:フレデリカ・フォン・シュターデ(メゾ・ソプラノ) フィガロ:サミュエル・レイミー(バリトン) 伯爵:トーマス・アレン(バリトン) バルトロ:クルト・モル(バス) 管弦楽:ロンドン・フィル 指揮:ゲオルク・ショルティ 録音:1981年、デジタル <DECCA>417 395−2/旧西ドイツプレス モーツァルトの『フィガロの結婚』は、ブログでfigarok492naなどと名乗っていることからも推察していただけるように、僕がもっとも大好きなオペラである。 うきうきとした序曲に始まって、許しと喜びに満ちあふれた幕切れまで、アリアや重唱はもちろんのこと、領民たちの合唱やレチタティーヴォにいたるまで、その音楽的魅力には抗い難く、実演録音ともに、それほど豊かとはいえない僕のオペラ経験の中でも大きな位置を占めている。 だから、できればこのショルティ&ロンドン・フィル他による録音も全曲盤を手に入れたいところではあるのだけれど、経済的にも時間的にもそうそう余裕のない身であることもまた事実で、ならばハイライトぐらいはと、このCDを購入することにした。 (一つには、このCDが輸入盤で、しかも初出盤だったということも大きい。僕は、CDを集めるに際して、基本的には国内盤や廉価再発盤は買わないことにしているのだ) で、このCDには、序曲、フィガロのカヴァティーナとアリア2曲、ケルビーノのアリアとアリエッタ2曲、伯爵夫人のカヴァティーナとアリア2曲、スザンナのアリア2曲、伯爵のアリア、バルトロのアリアに加え、第3幕の6重唱、伯爵夫人とスザンナの手紙の2重唱、第4幕のフィガロとスザンナの仲直り以降終曲までの計15曲が収められている。 (CD初期の時間的制約も考えれば、まあ妥当な選曲とも思えるが、個人的にはバルトロのアリアを除いて、第2幕の伯爵とスザンナの2重唱を入れて欲しかった。そういえば、以前NHKが教育テレビでルネ・ヤーコプスの指揮した『フィガロ』のハイライトを放映した時も、なぜかこのバルトロのアリアが選ばれていたっけ。あの時は、フィガロの「お殿様が…」その他大事な部分が相当カットされていて、海老ジョンイルめがと腹を立てたんだった) この文章を記すにあたって、五回聴いてみたが、やはり聴きものは、ルチア・ポップのスザンナとショルティ指揮のオーケストラということになるだろうか。 ただ、ポップの歌でも、第2幕のアリアはいくぶん気品があり過ぎというか、もともと上流階級にある女性が召使いに身をやつしているといった感じで、確かに素晴らしい声だけど、絶品とまでは言いにくい。 文句なしに絶品なのは、第4幕の「とうとう嬉しい時が来た…」で、ここではポップの美質、凛として透き通るような美しい声をたっぷりと愉しむことができる。 まさしく、聴きものだ。 また、ショルティとロンドン・フィルも、例えばアーノンクールをはじめとしたピリオド・スタイルとは完全に異なるものの、音楽の流れを活かした、軽快かつテンポ感のよい演奏で、序曲以下、全く聴き飽きない。 グラインドボーン音楽祭でオーケストラピットに入っているだけあって、ロンドン・フィルも巧みな伴奏ぶりである。 一方、他の歌い手たちも概ね優れた歌唱を披瀝しているが、僕の声の好みの幅があまりにも狭いこともあって、「めっちゃええで!」と喧伝したくなるまでにはいたらなかった。 伯爵夫人のキリ・テ・カナワは立派な歌いぶりだが、正直、僕はこの人の声と、どこか硬さの見える(聴こえる)「エロキューション」は好みではない。 レイミーは美声の持ち主だけれど、ドン・ジョヴァンニ的な大柄さと教科書的な生真面目さが混在していて、魅力的なフィガロとは言い難い。 逆に、アルマヴィーヴァ伯爵のアレンは、強い個性の持ち主ではないが安定した出来で、予想以上に感心した。 声の美しさでいえば、ケルビーノのフレデリカ・フォン・シュターデだが、チェチーリア・バルトリやマグダレーナ・コジェナーを経験した今となっては、どうしても物足りなさを感じてしまう。 それに、この人の場合、語尾がだらけるというか、節の終わりを歌い流しているというか、そういう点が非常に気になる。 モルは、彼の役者ぶりが十二分に発揮されていて面白くはあるが、先述した如く、あえてハイライト盤に選択する必要があったかは疑問である。 それと、これはショルティの解釈のせいもあるのだろうが、歌の後半、「Tutta Siviglia…」からの迫力がいくぶん不足しているようにも感じられた。 (ショルティという指揮者には、角々しかじか力みんぼうのイメージがあるのだけれど、第3幕の6重唱、それまで敵と思っていたマルツェリーナ・バルトロ・ペアがフィガロの実の両親と判明して大喜びの4人に対する伯爵とドン・クルツィオの間の手を比較的軽く処理していることからもわかるように、少なくともオペラでは音楽の流れに強く配慮した解釈をとっているように思われる) とはいえ、中古で税込み530円でこれだけ愉しめたら僕には充分だ。 我ながら、なかなかいい買い物でした。 なお、このCDの全曲盤に関しては、吉田秀和が『この一枚』<新潮文庫>で詳しく触れている。 ご興味ご関心がおありの方は、ご参照のほど。
by figarok492na
| 2008-10-03 14:29
| クラシック音楽
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