辻仁成と組んで『冷静と情熱のあいだ』を書いたのが影響したのか、最近では城山三郎もびっくりというようなものものしいタイトルの作品をものしている江國香織だけれど、はじめのころはあんな風じゃなかったのになあ、特に二十年以上も前に刊行された『つめたいよるに』や、文庫本ではそれといっしょに収められている『温かなお皿』(中でも『ねぎを刻む』や『冬の日、防衛庁にて』)なんて、タイトルもシンプルならば文章もシンプル、ダイヤモンドは小粒できらきらひかる、てな具合で見事だったよなあ、そういえばNHK・FMで以前やってた石田ゆり子の『つめたいよるに』の朗読は声の柔らかさと淡々とした語り口で作品の持つ世界観にぴったりだったなあ、などということを、ヤマコジ朗読実験室round3『~神様~』(東山青少年活動センター創造活動室)を観聴きしながら、ふと思った。
と、言っても、ヤマガタユミさんとコジマキョウコさんによるヴォイス・パフォーマンス・ユニット、ヤマコジが今回とり上げたのは、江國香織の作品ではなく、川上弘美の『神様』と、その後日譚である『草上の昼食』(ともに、『神様』<中公文庫>所収)だった。 ただ、今や「ちょっとは似た感じもあるんじゃないのかな?」程度になってしまった川上弘美と江國香織だけれど、かつては「似て非なるもの」と呼べるほどの親しい雰囲気が二人の作品にはあったのである。 (そういや、川上さんと江國さんの対談した記事を読んだことがあったんだ。川上さん、ほんと背が高いんだよね) で、『神様』は、江國香織にとっての『つめたいよるに』と同じような意味合いを持った作品、どころか、現在朝日新聞に連載中の『七夜物語』も含めて、川上弘美の全ての作品はこの『神様』の変奏と呼んでも言い過ぎではないくらい、川上弘美ファンにとってはマストの作品なのではないか? なにせ、同じマンションに引越してきた「くま」(純然たる動物の!)に誘われて、「わたし」が「散歩のようなハイキングに出かける」というどこか不可思議で、しかしなんともほのぼのとした展開と、「くま」と「わたし」の微妙でやるせない関係は、その後の川上さんの作品世界を単適に示しているからだ。 そしてそんな『神様』(と『草上の昼食』)を、ヤマコジの二人は、「くま」と「わたし」をほぼ交互に読み分ける形で朗読していたのだけれど、個人的には、そうした趣向が巧く活かされていたとは言えないのではないかと感じてしまった。 確かに、ヤマガタさんとコジマさんが朗読の基礎をきっちりと押さえていることは充分にわかったし、今日の回は万全ではなかったかもしれないが声質という意味でも二人には魅力がある。 けれど、「くま」と「わたし」の性質や感情が、ヤマガタさんとコジマさんとで大きく変わってしまっているように感じられるのは、たとえそれが個々の特性の表われだとしても、やはり大きな問題だろう。 「くま」と「わたし」というキャラクターがはっきり分かれる作品だけに、ヤマガタさんとコジマさんで各々の役を演じ分けるか、今回のような構成をとるならば、登場人物のキャラクターの把握を一層綿密にすり合わせる必要があるのではないかと思う。 (これは個人的な好みだけれど、朗読中の音楽はもっと無機的というか、家具的なものでもよかったのではないか) あと、冒頭、並びに『神様』と『草上の昼食』の間に、ダイカイカズコさんとフクイサチヨさんがダンスを演じたが、技術に関する云々かんぬんはひとまず置くとして、公演全体のコンセプトを考えた際、朗読の部分との共通性があまり感じ取れないもどかしさを覚えた。 (ダイカイさんとフクイさんのダンスが、『神様』と『草上の昼食』を踏まえたものであろうことが全く想像できなかったわけではないとはいえ) 次回の公演では、朗読とダンスのコラボレーションという企画の狙いがよりはっきりとしたものになることを期待したい。 なお、公演終了後、手作り焼き菓子「RICO」のマフィン(ラムレーズン)とピーチティーをいただいたが、このマフィンは柔らい甘さに加え、マフィン自体の食感とラムレーズン、くるみの食感のバランスもよく、実に美味しうございました。 ごちそうさま! (時期が時期だけに、かぼちゃのマフィンも食べたかったな)
by figarok492na
| 2009-11-01 19:45
| 観劇記録
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