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『カティンの森』

 アンジェイ・ワイダ監督の最新作『カティンの森』(2007年、ポーランド)を観た。

 『カティンの森』は、そのタイトルからも明らかなように、第二次世界大戦中の1940年、捕虜となったポーランド人将校1万数千人がソ連によって虐殺されたカティンの森事件をモティーフとした作品である。
 当然、この事件で、自らも父を殺害されたアンジェイ・ワイダは、ソ連が犯した罪を厳しく告発する。
 そして、父を待ち続けた母や妻たちの深い哀しみや強い憤りを描く。
(アンジェイ・ワイダは、この『カティンの森』を彼の両親に捧げているのだ)

 それとともに、この作品は、共産主義ソ連やナチス・ドイツに蹂躙されたポーランドの姿と、そうした状況の中で翻弄され続ける人々の姿を克明に映し出す。

 加えて、この作品は、人間が犯す暴力や罪、さらには人間存在そのものへの問いかけ(そこにはもちろん宗教や神の問題も含まれているだろう)ともなっているように、僕には思われる。
(その意味で、成功作か否か置くとして、僕は同じアンジェイ・ワイダの『悪霊』を思い出す)

 全編、ユーモアなどとは全く無縁の、まさしく救いのない展開が続いていくのだが、一つ一つのエピソードの選択の的確さと表現の距離感の適切さ、作品の世界観によく沿った役者陣の優れた演技によって、2時間を超える上映時間を僕は長く感じることはなかった。

 クシシトフ・ペンデレツキの作曲による音楽(交響曲第4番やポーランド・レクイエムの引用)も効果的だったのだけれど、ラストの音のないローリングタイトルに、僕は一層アンジェイ・ワイダの強い意志を感じた。

 いずれにしても、本当に観てよかったと思える作品だった。
 多くの方に、ぜひともお薦めしたい。


 *追記
 僕は、この『カティンの森』を観ながら、ふと新藤兼人のことを思い出した。
 アンジェイ・ワイダと新藤兼人の大きな違いは充分承知しつつも、老いてなお自らが伝えようとすることを執拗に作品にし続けるという点で、二人の監督の姿が僕にはどうしても重なり合ってしまったのだ。
by figarok492na | 2010-01-14 22:53 | 映画記録
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