カテゴリ:カルタ遊び( 9 )

カルタ遊び 12

☆カルタ遊び 12

 ええ、一杯のお運び誠にありがとうございます。東京から参りました売れない落語家、三遊亭凡馬でございます。ボンバヘイ! 売れない落語家でございますが。あたくしは、凡人の凡に馬と書いて凡馬でございまして、師匠が亡くなりました三遊亭汗馬でございます。あの、湯カンバのカンバじゃございませんよ。汗に馬と書いて汗馬でございまして、手のつけられようのない暴れ馬って意味で。まあ、確かに、暴れ馬でございまして。何せ、本物のこれ(頬に線を引く)、でございますから。東京広しといえど、背中に我慢、お灸のあとじゃないですよ、彫り物、刺青、それも髑髏なんてのが入った噺家なんて一人っきりだったでしょうね。少なくとも今世紀に入ってからは。もともと、浅草の生まれなんですがね、あたくしの師匠は。昭和二十年三月十日の東京大空襲で、家族丸ごと焼き殺されちまいまして。天涯孤独の身の上。そこを拾ってくれたのが、新宿のマーケットの大親分だったそうでして。その一の子分とまで言われてたってえから凄いもんです。それが運がいいのか悪いのか警察に捕まって、なんで捕まったのかはご想像にお任せしますが、当時の新宿署の署長さんから諭されたってんです、お前は口跡が良いから噺家になったらどうかって、それで紹介されたのが、昭和の大名人三遊亭金馬、あたくしにとっては大師匠にあたります先代の金馬でございました。まあ、そんな汗馬のもとにあたくしが弟子入りするきっかけというのが、というより、無理やり弟子にさせられたみたいなものなんですよ、本当のところは。かれこれ三十年近くも前のことになります。忘れようったって忘れられませんよ、あれは千駄ヶ谷の銭湯でした。あたくしがお湯につかって、寿限無寿限無五劫のすりきれ、なんて調子よく口ずさんでたときです、後ろのほうから、おいって低い声がするんですよ。あれ、なんだろうって、振り返ると、あるんですよ、髑髏の刺青が…。
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by figarok492na | 2015-11-19 04:18 | カルタ遊び

カルタ遊び その11

 戦後不調の続いていた成瀬巳喜男にとって起死回生の一作となった『めし』(1951年)だが、もともと同じ戦前派の名匠千葉泰樹が監督する予定であったことは古い邦画ファンの間では非常に有名な話である。

 と、唐突にこんなことを書き始めたのも、先日三鷹のシアターQの千葉泰樹特集で、彼の『厩火事』(1956年)を愉しんだからだ。
 『厩火事』は、おなじみ古典落語を八住利雄が脚色し、髪結いのお崎を淡島千景、亭主の八五郎を森繁久彌、仲人を小堀誠が演じるというあたり、どうしても豊田四郎の『夫婦善哉』(1955年)を思い起こすのだけれど、実際千葉泰樹自身そのことを大いに意識しているようで、終盤のお崎と八五郎の掛け合いは江戸版『夫婦善哉』とでも呼びたくなるような、歯切れの良さにのりの良さだ。
 またこの作品では、落語で仲人の口にする孔子と麹町のさる殿様のくだりが劇中劇として再現されているが、特に孔子に扮した森繁に、三木のり平、山茶花究、有島一郎といった連中が馬鹿騒ぎする厩火事のシーンでは千葉泰樹の喜劇性が巧みに示されている。
 加えて、古今亭志ん生がこの噺の冒頭部分を演じているのも、今となっては非常に貴重だろう。
(千葉監督に何度も同じ部分を繰り返させられた志ん生は、敗戦前後の満州で親交を結んだ森繁に「あたしゃ壊れた蓄音器かい」とこぼしたそうだ)
 手堅くまとまっていることが災いしてか、あいにく名作傑作の評価は得られてないが、観て損のない一本であることも確かである。
 中でも落語好きの映画好きには、なべてお薦めしたい。

 それにしても、時期的には逆になってしまうものの、森繁淡島コンビ、千葉泰樹監督による『めし』を、私はぜひ観てみたかった。
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by figarok492na | 2015-02-25 03:59 | カルタ遊び

カルタ遊び10

 モーリス・エ・ハイドロジェン。

 アレクセイ・ドミトリエヴィッチ・アルカシンスキーは、ヴァレリー・グリゴリエヴィッチ・ナシュタートフから借りた歴史学のノートの隅に記されたその言葉に目を留めた。
 歴史学の講義(それはどうにも退屈なものだった)については黒い万年筆で克明に記されているにも関わらず、モーリスと水素という言葉は、青いボールペンで薄く走り書きされているだけだった。
 ノートの前後を確認してみたが、そこにはあまり賢いとは言えないピョートル三世の治績と生涯が書き連ねてあるだけで、モーリスと水素という言葉との関連性は全くうかがうことができなかった。
 アルカシンスキーは、彼にノートを手渡すときのナシュタートフの様子を思い起こしてみた。
「明日から旅に出る。愉しい旅だ」
 そう言ってナシュタートフは微笑むと、ゆっくりとアルカシンスキーに右手を差し出した。
 握手は彼の癖だった。
 アルカシンスキーは、モーリスと水素という言葉の意味をはかりかねた。
 なぜなら、ナシュタートフは旅先で自動車に轢かれて亡くなってしまったから、もはや彼に尋ねてみることは適わないのだ。
 ただモーリスと水素という言葉が、アルカシンスキーとナシュタートフの間でさまよっている。
 アルカシンスキーは、自分の日記にモーリスと水素という言葉だけを書き写した。
 亡き友人に倣って青いボールペンで。

 モーリス・エ・ハイドロジェン。

 イリーナ・アレクセエヴナ・アルカシンスカヤは、父の遺した日記に…。
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by figarok492na | 2015-01-03 13:51 | カルタ遊び

カルタ遊び その8

「はい、向日町公平探偵事務所」
 と、俺が応えたところで、電話はぶつりと切れた。
「ねえ、これで三回目でしょう」
 薫が俺にそう言った。
 薫はソファーに寝そべったままだ。
 ソファーから飛び出た左足に、ずっとマルコンがじゃれついているというのに。
「いや、これで四回目だよ」
「えっ、だって」
「君はさっき眠ってたじゃないか。大きないびきをかいて」
「大きな、は余計よ」
 薫はマルコンを撫でるように蹴ると、胸ポケットから煙草の袋を取り出した。
「ライターある」
「ごめん、今禁煙中なんだ」
「嘘」
「ほんとに」
「ふうん」
 薫は煙草の袋をポケットに戻すと、仰向けになった。
「で、誰だと思う」
「電話の主が」
「だいたいの目星はついてるんでしょう」
「そうだね、全く見当がつかないってことはないよ」
「さすがは向日町公平ね」
「だけど、今一つ確信が持てなくてね」
「どうして」
「どうしてって、あいつはとっくの昔に死んでるからさ」
 薫は乾いた笑い声を上げて、
「どうやって死人が電話をかけてくるのよ」
とからかうような口調で言った。
「そうさ、それが問題なんだ」
 俺は、デスクの上の古い黒革の手帳をゆっくりと開いた。
「でも、鍵がここにある。謎を解く大きな鍵が」
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by figarok492na | 2014-08-31 04:34 | カルタ遊び

カルタ遊び その7

 街一面の雪景色。
 センデリーヌとヘンデリーヌは、今朝も一緒に手をつないで、学校目指して歩いています。
 センデリーヌは赤い長靴、ヘンデリーヌは青い長靴。
 赤と青。青と赤。
 ああっ。
 どうしたの?
 あれっ。あれっ。
 どれっ。
 ほらあ。あそこ。
 センデリーヌが道端を指さしました。
 なんとそこには、白い長靴が片方落ちていました。
 誰のだろうね?誰のだろうね?
 センデリーヌもヘンデリーヌも首をかしげました。
 右に右に。左に左に。
 だめだよ、遅れちゃう。
 ヘンデリーヌがセンデリーヌの手を引きます。
 ほんとだ、遅れちゃう。
 ヘンデリーヌは紺色の手袋、センデリーヌは飴色の手袋。
 紺色と飴色。飴色と紺色。
 ああああっ。
 どうしたの?
 あそこ。あそこ。
 どこ。
 ほらあ。あそこ。
 ヘンデリーヌが道端を指さしました。
 なんとそこには、白い手袋が片方落ちていました。
 誰のだろうね?誰のだろうね?
 ヘンデリーヌもセンデリーヌも首をかしげました。
 左に左に。右に右に。
 そして、今朝はなんて不思議な朝なんだろうと二人は思いました。
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by figarok492na | 2014-08-27 03:39 | カルタ遊び

カルタ遊び その6

 ふるごすふるごすあうかんとす

 ふるぎすふるぎすまるかんとす

 あぶるつけるとおふかんと

 いんもらしうすみのべうす

 ていらていんげおねすいだきしす

 もべりてあうねいおしおしす

 うるぶんそるげすひうあきんとるす

 みてもてているねすあうておす

 でねでねきおれきおれきあうす

 おるべるていおねしおでしとうです

 こんあみらあとすめうれきだあもす

 あんたきれえてすもうりこでいもす

 いおくるでいしすゆびらんと

 いおくるでいしすゆびらんと

 あめんとあめねすまきれくでうす

 るつかあるばすゆきででしす

 へろこんでいてすみおもてでんとす

 ふるごすふるごすあうかんとす

 ふるぎすふるぎすまるかんとす

 どなどねどるねのうびすぱあちえむ
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by figarok492na | 2014-08-22 22:48 | カルタ遊び

カルタ遊び その3

 むべなるかな。
 元禄八年の冬、母方の伯父である鳥取藩の国家老荒尾氏のもとに身を寄せていた俊藤修理は、かつての同輩十河弾正より届いた書状に目を通し、そう嘆息した。
 書状には、播磨国三日月藩三万石の藩主で先頃奏者番に任ぜられたばかりの高遠摂津守有宇が江戸藩邸において激高した家老職の塩見豊後によって刺殺されたこと、さらにはそれがすでに御公儀の耳にも達し、三日月藩の改易が免れぬだろうことが記されていた。
 弾正は、摂津守の日頃の言行が今度の御沙汰につながったものとも付け加えていた。
 幕政進出の野望を胸に、策謀の限りを尽くしておられたあの方がこうも易々と亡くなるとは。
 世の中とは、なんと不可思議なものか。
 と思う反面、修理は因果応報、当然至極とも考えざるをえなかった。
 あの方は、一度たりとて腹の底から笑ったことのないお方だった。
 目の底はいつも笑ってはおられなかった。
 人を利用する術はよく心得られておられても、人の心を動かす術は全く心得られておられなかった。
 それがまた、家臣一同ばかりか、民百姓にまで見抜かれてもいた。
 しかも、家臣が諫言を重ねれば諫言を重ねるほど不機嫌の度合いを増し、結果身近な場所より遠ざける始末だった。
 一度丹後宰相頼尋卿よりその姿勢を厳しく叱責されたる際も、ただただ自らの手元の扇子を見つめるばかりで言葉もなく、頼尋卿立ち去りしあとは、あの老候を失脚させる手立てはないものかと俄然怒りの声を上げ、塩見豊後の心を強く苦しめたものだ。
 その塩見豊後があの方を殺したのである。
 何か途方もないことが起ったに違いない。
 と、修理は思い到らざるを得なかった。
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by figarok492na | 2014-08-14 17:46 | カルタ遊び

カルタ遊び その2

「房子さまはそうおっしゃって、部屋をお出になりました」
「それじゃあ、房子さんは部屋を出たと言うんだね」
「はい」
「房子さんにはそういうところがあるからなあ」
「そういうところってどういうところよ」
「だって、そりゃ。永井さん。永井さん、永井さん」
「この人なら寝てますよ」
「たぶんお疲れになられたんでしょう」
「なんだかんだ言っても、もう八十過ぎの老人だからなあ」
「おい、何か言ったかい」
「いいえ、何も」
「警部、失礼します。庭のほうを調べましたが、櫟さんと思しき足跡は一切ありませんでした」
「ううん、そうか。それでは、房子さんはどこへ行ったんだろう」
「そういえばあなた、前にも一度こういうことがあったじゃありませんの」
「そうそう、あったなあ。あれは、叛乱事件の前の日のことだった」
「叛乱事件ってなんのこと」
「ニ・二六事件のことだよ。伊勢君、君もあのとき櫟さんのお屋敷にいたんだろう」
「ええ、いましたが。しかし」
「そ、そ、その話を、ぼ、ぼ、ぼくに聞かせていただけませんか」
「それよりも、房子さんの行方を探すことが先じゃないのかね」
「まあ、汚い。テーブルがフケだらけ」
「あっはっは。等々力さん、房子さんなら大丈夫ですよ。ねえ、そうでしょう伊勢さん」
「まあ、そうですね。ねえ、芝山君」
「はあ、実はその、房子さまはですね、すぐそこに」
「えっ!!!!!!!!」
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by figarok492na | 2014-08-13 23:28 | カルタ遊び

カルタ遊び その1

 お芝居や音楽にエチュードがあるように、文章にだってエチュードがあっていいじゃないか!
 なあんてもったいはいらないわけで。
 作業を進めていると、どうにもそこから先に進めない状況に陥ることもありまして。
 で、息抜き代わりに、原稿用紙2枚分800字の脈絡のない断片を、気が向いたときに即興で書いていこうかと思った次第。
 内容のひどさは言うまでもなく。
 あくまでも中瀬宏之自身のためのエチュードということでここは一つご勘弁のほど。
 ちなみに、『カルタ遊び』というのは以前書き始めて途中で断念した連作掌篇のタイトルをスライドさせたものですので悪しからず。


***


 『カルタ遊び』は、ストラヴィンスキーが一九三六年に作曲した三場のバレエ音楽であり、ロッシーニの歌劇『セビリャの理髪師』序曲をはじめ、様々な音楽がパロディ的に引用されている。

 そこまで記して、木嶋は筆を置いた。
 ここから先はCDを聴いてみないことにはわからない。世の中には、CDを聴かずしてCDレビューをものしてみせようとする猛者もいるらしいが、いくら文章書きが仕事とはいえ、クラシック音楽ときたらあいにくこちとらずぶの素人、そんな馬鹿な真似はできるわけがない。
 それにしても、このコンスタンチン・コンスタンチノヴィチ・ストロガノフスキーという指揮者ときたらどうだ。乃木大将かボニージャックスのメンバーかと言いたくなるような村夫子然とした面構えではないか。ドベチンスク交響楽団というオーケストラの名前もまたロシアの田舎田舎しているし。
 はたして両者はどんな演奏を披歴しているのだろうか。
 などと、木嶋はCDのブックレットを睨みつけながら一瞬物想いにふけった。

 と、そのときだ。
 窓の外から、女の悲鳴が聞えてきた。
「助けて、助けて、斎藤道三よ」
 木嶋は、あまりにあまりな言葉ゆえ、思わず手にしたCDブックレットをぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃと丸め捏ねた上で、びりびりびりびりと引き裂いてしまった。
「畜生、何馬鹿なこと言ってやがる。てめえは人間じゃねえやたたっ斬ってやる」
 木嶋は座右に置いた胴田貫をさっと手に取ると、やおら戸外へ出ていこう。
 としたところで、恐るべし、ほわほわほわほわあと鳴り轟く法螺貝の音。
 ああ、そはきっと斎藤道三の軍勢。
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by figarok492na | 2014-08-13 03:16 | カルタ遊び